夜半からの雨は止むこともなく、グラウンドに水たまりを一つ、二つと作っていく。

そうなってくると部活は勿論無くて筋トレとかの自己練になってしまう。

野球が何よりも好きな田島や三橋は朝から信じられないほど鬱ぎこんでいて見ているこっちまで鬱になってしまいそうだ…。

何となくやる気も削がれていって授業も寝ている間に終わってしまった。

本当なら、今から急いでユニフォームに着替えて、グラ整を簡単に終わらせて、思いっきり野球して…。

はあ…と溜め息を一つ零すと気怠げに帰りの準備を始めた。

 

「あ、泉。こないだ貸したCDまだ?」

 

ためらいがちにクラスメートに言われて俺はハっと思い出した。

好きなグループだからと、渋る友人を拝み倒して借りた新曲…。

MDに落として…えっとそれから何処やったっけ?

 

「悪ぃ、部室に置きっぱなしだわ。」

 

「うん…まあ明日でも良いんだけど。」

 

「遅かったら帰っていいし。ちょっと今から取ってくるわ。」

 

そう告げると、取りあえず携帯だけをポケットに突っ込んで部室へと向かった。

グラウンド使用の部の多くが部活が休みでクラブボックスは何処も灯りが点いていない。

いつもは騒がしい其処が閑散としていることに俺は少し不安を覚えた。

一番端っこに位置する野球部の部室。そこからは薄い光が漏れていて…。

 

「誰かいる?」

 

声をかけながらドアを開くと其処には携帯を握っている水谷がいて…。

ああ、だから微妙に明るかったのか…と納得して俺は自分のロッカーの元に向かおうとした。

 

「忘れ物?」

 

「うん。まあ…。」

 

雑然としたロッカーからはいらないモノばかりが出てきてなかなか目標のモノが見つからない。

必死でロッカーの中を漁る俺を水谷は呆れた顔でじっと見詰めていた。

 

「つか、なんで水谷がいるんだよ。」

 

半ばキレ気味になって尋ねると笑ったような声で水谷が答える。

 

「八つ当たり?俺が何処にいようと関係ないだろ?」

 

「はいはい、聞いて御免なさいねぇ。」

 

なかなか見つからないからかイライラしてきて実際喋るのも億劫だ、なんて思えてきて探すのに集中しようとロッカーに顔を突っ込んだ時、肩に違和感を感じた。

強い力で引っ張られて俺は思わず仰向けに転んだ。その先には水谷がいて…。

 

「っ痛て…何すんだよ?」

 

「泉ってさ…入学したての時って可愛かったよな。」

 

真顔で水谷が言うのを俺は口をあんぐりと開けて見詰めるしかなかった。

いや…カワイイとかって三橋になら言っても不思議じゃないだろうけど…何言ってんの、コイツ…。

 

「ホント、可愛かったのにさ…浜田だっけ?アイツ来てから変わったよね。」

 

「え、浜田?なんで浜田が関係あるんだよ。」

 

「無意識なんだ〜。俺はてっきり見せつけられてるのかって思ってた。」

 

「おいおい…水谷?大丈夫か…さっきからお前ちょっと変…

 

ガタンという音が響いてコンクリ作りの部室に反芻する。

一瞬何が起ったのか理解できずに見開いた瞳は真上から覗く水谷を映す。

のし掛かる水谷を押し返そうと必死で力を入れるが体位的に叶うはずもなくて…

 

「何のつもりだよ?」

 

「ごめん……」

 

謝るが上を退こうとしない水谷はただ、ごめん…と繰り返すばっかりで…。

 

「だから…早く退けろって。」

 

「なぁ、泉…お前って猫かぶりだよな…。」

 

「何言ってんの?急に…。別にかぶってねえし」

 

「浜田が援団作るって…部活来てからさ全然話し方とか変わっただろ?

いや、それが本当の泉だって解ってるよ。

解ってるけど…なんかソレ認めたらお前が俺らには気許してなかったって事認めるみたいで嫌なんだよ…。」

 

すっげぇ嫌、と繰り返す水谷に俺は何となく気まずくて俯いた。

自覚してなかっただけにすごい恥ずかしい…。やっぱり…9年間っていう時間は俺の中でもトクベツなんだろうと思う。だからといって今の仲間を軽んじてるわけではないし、水谷の事も大事なチームメイトだって思ってるわけで…。

 

「別に浜田がトクベツとかいうわけじゃないよ。気が許せるって言うのはあるけど…水谷だって大事な仲間だし…。」

 

「仲間ね…俺ね、泉のことチームメイトって思えないの。」

 

突然のカミングアウトに俺は声さえ出なかった。

いや…今、俺が大事な仲間だって言ったばっかりじゃん。

 

「入学したときから好きなんだ。泉が。」

 

「え…水谷…大丈夫か?やっぱお前今日変だって!雨降って野球できない欲求不満ならもっといい解消方法もあるだろ?」

 

「欲求不満ではあるけどね。」

未だに上にのしかかる水谷を本気で退かせようと抵抗すると遠く布を裂く音がして…

水谷の手には元・カーテンだった布きれが握られていて…

勝手にカーテン裂いちゃダメだろ…ってツッコミをする間もなくソレは腕と腕を絡めていった。もしかしなくても…縛られてしまったのだろうか…。

 

「動かなきゃそんなに痕にならないから。抵抗しすぎると擦過傷になるかもしれないけど」

 

「な、なにする気?」

 

「言わなかった?泉のことが好きなの。好きで好きでたまんないの」

 

女の子にも言われたこと無いセリフをまさか水谷の口から聞くなんて想いもしなかった。

でも…この状況はアリではない気がする。

 

「水谷…お前もてるだろ?何も男じゃなくても…。」

 

「俺は泉だから好きなの。」

 

「俺が嫌だって言ったら?お前なんてお断りだって。」

 

一瞬水谷が凍り付く。

まさかコイツはそういう事態を想定していなかったのだろうか…。

 

「俺のこと嫌い?いや、フツー嫌うよな…。……。」

 

「み、水谷?」

 

「俺は…俺はそれでも泉が好きだから…。」

 

え…だからって……

人の話を全く聞いていない目の前の男は勝手に自己完結を済ませニッコリと微笑んだ。

 

次の瞬間、スローモーションで水谷の顔が落ちてくる。

段々近くなる顔に俺は思わず息を止めた。

呼吸困難…

唇にぶつかる生暖かいモノが俺の口を無理矢理開けさせ空気を押し入れる。

腔内を舐め上げ、舌は歯列を通って俺の舌を吸い上げる…。

そのまるで別の生き物のように動き回るモノに翻弄されて俺は耐えきれずに声を上げた。

その声が聞いたこともないような嬌声で…。

あまりの恥ずかしさと、息苦しさに顔を背けると余計に深く入り込んでしまう。

口づけを止めない水谷に両手をふさがれた俺は抵抗する事も出来ない。

半ば、苦しくて涙目になってくる。

ソレを見た水谷は漸く唇を解放してくれた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

乱れた息を必死で整えていると水谷の手がシャツに伸ばされる。

苦しげな俺とは対照的に余裕のある顔をした水谷は一つ、一つと器用にボタンを外していった。

最後の一つを外して露わになった肌…。

野球焼けをした体は腕以外が真っ白で自分でも少し気持ち悪く感じる。

近づく水谷の顔は今度は鎖骨へと向かって…。

急に外気に晒された肌に生暖かい水谷の舌。

感じたこともないような刺激が体を電流のように駆けめぐった。